開発を始める前の基礎学習記事全11節Concept
「提出ボタンを押す」で何が起きるかを見取り図にする
この記事で身につくこと利用者・画面・処理・保存先・通信の5つの登場人物と、操作から応答までの流れを自分の言葉で説明できる。ブラウザ・サーバー・APIの語に意味と例を添えて使える。
記事内目次(22項目)
この記事の会社・人物・アプリはすべて架空の設定です。実在する会社や案件とは関係ありません。
この記事は何の話か。依頼・承認管理アプリで「提出ボタンを押す」という1つの操作が、パソコンの中でどんな順番で処理されるかを、見取り図にする話です。システム開発とは、この見取り図に出てくる部品(画面・処理・保存先)を「誰が何をできるか」の約束どおりに作り、本当にそう動くかを確かめて、使い続けられる状態まで育てる仕事のことです。
なぜ必要か。「画面」「サーバー」「データベース」といった言葉を聞いたことがあっても、それぞれが何をしていて、どうつながっているかが分からないと、この先の記事(設計・実装・検証)で「今どの部分の話をしているか」が分からなくなります。また、AIがコードを書く時代になっても、この見取り図の部品と流れは変わりません。変わるのは「誰が作るか」であって、「何を決め、何を確かめるか」ではありません。
この記事を読むとできるようになること。
- 利用者・画面・処理・保存先・通信の5つの登場人物と、操作から応答までの流れを説明できる
- ブラウザ・サーバー・APIという言葉に、意味と具体例を添えて使える
- 「提出ボタンを押す」という操作の見取り図を自分で描き、AIに任せる部分と人が決める部分を言える
読む順路。この記事は3つの深さで読めます。全部を順に読む必要はありません。
- 基本だけ理解する:第1節→第3.1節(5つの登場人物)→第5.2節(見取り図)→第9節。ここまでで、この先の記事に出てくる「画面」「処理」「保存先」が全体のどこを指すかが分かり、自分の業務の操作を1つ図にできます。
- 作って確かめる:上に加えて第3.3節(AI時代に変わること・変わらないこと)→第4節(見取り図を描くときに判断すること)→第6〜7節(描き間違えやすい点と、この図の限界)。
- 設計判断を深める:上に加えて第8節(判定をどこに置くかという、後の工程へ持ち越す論点)。
1. 今回の業務課題と完成するもの
この記事でやることは、依頼・承認管理アプリで依頼者が「提出」ボタンを押したときに、パソコンの中で何が起きるかを、5つの登場人物を使って一巡の見取り図に書くことです。
架空企業「みらい業務サービス」の総務部門では、会議室の機材手配や名刺の発注といった依頼が、メールとチャットに分かれて届いています。この教材では、その依頼を「下書き→提出済み→差戻し/承認済み」という4つの状態で管理するアプリを、企画から運用まで通して作ります。依頼者の佐藤さんが依頼を書いて「提出」を押し、承認者の鈴木さんがそれを承認する、というのが基本の操作です。
これから02〜13の記事で「画面を作る」「保存先を決める」「処理を検証する」といった話が出てきますが、それぞれが全体のどこに当たるかが分かっていないと、話がばらばらに見えてしまいます。この記事は、そのための共通の地図を作ります。工程(作業の順番)の地図は00-03で作ります。この記事はアプリの中身(部品と流れ)の地図です。
この記事を読み終えると、次のものが手元にできます。
- アプリの見取り図(登場人物、矢印の意味、提出操作1件の流れ)
2. 前提知識と読む順路
この記事はこの教材の入り口であり、前提となる記事はありません。この記事で使う言葉は、すべてこの記事の中で説明します。
先に「システム」と「アプリ」の2語だけ確認しておきます。
システム(アプリ)
一言でいうと、人の操作を受け取り、決められたルールで判断し、結果を残して返す仕組みです。
たとえば、佐藤さんが「提出」を押すと、依頼が「提出済み」として記録され、鈴木さんの一覧に現れる。これが仕組みの一巡です。
これがないと、依頼がメールとチャットに散らばり、「今どこまで進んだか」を誰かが探し回ることになります(01-02で扱う困り事です)。
システム開発では、業務用に作るこの仕組みをアプリケーション(application、略してアプリ)と呼びます。この教材では「アプリ」と「システム」を同じ意味で使います。
読む順路:この見取り図は、00-02(ファイル・コード・データを区別する)、00-03(企画から運用までの全体像を知る)で繰り返し使う共通の図になります。
3. 理解する:5つの登場人物
3.1 誰が・何が関わるか
依頼・承認管理アプリが動くとき、次の5つが関わります。
| 登場人物 | 一言でいうと | この題材での例 |
|---|---|---|
| 利用者 | アプリを操作する人 | 依頼者の佐藤さん、承認者の鈴木さん |
| 画面 | 利用者が見て操作する部分 | 依頼作成画面、一覧画面(04-02で扱う) |
| 通信 | 画面と処理の間で情報をやり取りする経路 | 「提出」ボタンを押したという合図を送る道 |
| 処理 | 受け取った内容を判断し、次にすることを決める部分 | 「必須項目はそろっているか」を確認する部分 |
| 保存先 | データを覚えておく場所 | 依頼の内容や状態を保存しておく場所(05-01で扱う) |
ブラウザ
一言でいうと、利用者が画面を見て操作するためのアプリです。たとえば、依頼者が普段使っているインターネットを見るアプリが、依頼作成画面を表示する役割も果たします。
これがないと、利用者は画面を見ることも操作することもできません。
サーバー
一言でいうと、利用者から離れた場所で、処理や保存を行うコンピュータです。たとえば、佐藤さんが提出ボタンを押すと、その内容は佐藤さんのパソコンの外にあるサーバーへ送られ、そこで判断や保存が行われます。
これがないと、複数の利用者(依頼者・承認者・運用管理者)が同じ依頼のデータを共有できません。
API(連携の約束)
一言でいうと、画面(ブラウザ側)とサーバー側が「何を、どんな形でやり取りするか」をあらかじめ決めた約束です。たとえば、「提出ボタンを押したら、依頼のIDと内容をこの形式で送る」という約束がAPIです。
これがないと、画面側とサーバー側で、送る内容の形がバラバラになり、正しく伝わりません。
システム開発では、この5つの登場人物と、ブラウザ・サーバー・APIという言葉が、これから読むほぼすべての記事で登場します。
3.2 よくある誤解
「画面(ブラウザ)がすべてを処理している」。画面は入力を受け取って表示するだけで、実際の判断(承認してよいかなど)や保存は、画面の外側(サーバー・保存先)で行われます。
「保存先はどこか1つのファイルのようなもの」。保存先は、依頼・利用者・履歴といった複数の種類のデータを整理して持つ仕組みです(05-01で詳しく扱います)。
「通信は一瞬で終わるので、失敗を考えなくてよい」。通信の途中で失敗することがあり、失敗した場合にどう扱うかは08-03・08-04で設計します。
3.3 AI時代に変わること・変わらないこと
結論から言うと、AIがコードを書けるようになっても、この見取り図の部品と流れは変わりません。変わるのは「部品を作る作業の速さと担い手」です。
佐藤さんの「提出」が正しく処理されるには、誰かが次のことを決めていなければなりません。件名が空の依頼を提出できてよいか。承認者は依頼ごとに1人か。自分の依頼を自分で承認してよいか。これらは業務の約束であり、AIは「一般的にはこうです」と候補を出せても、この会社の決定はできません。決めた約束どおりに動くかを確かめるのも、約束を知っている人の仕事です。
| 項目 | AIがコードを書く時代に変わること | 変わらないこと |
|---|---|---|
| 画面・処理・保存先を作る作業 | AIに指示して下書きを作らせられる。速く、安く試せる | 部品が5つあり、この順に情報が流れることは同じ |
| 「誰が何をできるか」を決める | 候補や一般論はAIが出せる | 決めるのは業務に責任を持つ人(00-04、記事A) |
| 「本当にそう動くか」を確かめる | テストの下書きや実行はAIに任せられる | 期待する結果を要件から先に決め、結果を照合するのは人(記事B) |
| 使い続ける(運用・障害対応) | ログの整理や記録の下書きはAIに任せられる | 止める・戻す・再開するの判断は人(記事C) |
つまり、「AIがコードを書く」ことと「システム開発ができる」ことは別です。コードは見取り図の部品の1つにすぎず、部品を何のためにどう並べ、どう確かめるかを決める仕事は残ります。この教材の01〜13は、その残る仕事を工程ごとに扱います。
4. 判断すること
見取り図は「描けばよい」ものではなく、描く前に3つの判断があります。
4.1 この記事で判断すること
| 判断すること | なぜ判断が必要か | 仮置きしてよいか | 間違えた場合の影響 |
|---|---|---|---|
| どの操作を1件選んで図にするか | 全部の操作を一度に描くと、流れが追えない。まず1件で一巡をたどる | 可(この記事では「提出」を選ぶ。後から「承認」でも同じ形で描ける) | 図が複雑になり、「処理」と「保存先」の区別がつかないまま次の記事へ進む |
| 自分の業務の何が「画面」「処理」「保存先」に当たるか | この対応が付かないと、04(画面)・05(データ)の記事で自分の業務に置き換えられない | 可(迷ったら「人が見て触るもの=画面、判断するもの=処理、覚えておくもの=保存先」で仮に置く) | 画面で判断している業務を「処理」と勘違いすると、08-03で「画面を通らない操作を止められない」問題を見落とす |
| 判定(必須項目の確認など)を画面・処理・保存先のどこに置くか | 置き場所で「守れること」が変わる(第8.1節) | この記事では決めない。論点として04-02・05-03へ持ち越す | 早く決めすぎると、画面だけで判定する設計になり、直接処理へ送られた操作を止められない |
4.2 勝手に決めてはいけないこと
- この記事では、画面の具体的なデザインや、保存先の具体的な種類(データベースの製品名など)を決めません。それらは04・05・03-03で扱います。
- 登場人物の名前(利用者・画面・通信・処理・保存先)は、この記事と
docs/CONTENT_MAP.mdで使う共通の呼び方であり、この記事で新しい名前に変えません。 - 「提出できる条件」(件名が必須か、承認者を必ず選ぶか)は、この記事では図の説明のために仮に置いているだけで、正式には記事Aの要件で決めます。
4.3 AIに任せる範囲
この記事の作業で、AIに任せてよいのは次のことです。
- 「画面・処理・保存先」の一般的な説明や、見取り図のたたき台を作ること
- 自分の業務の操作を1つ伝えて、5つの登場人物に当てはめた案を出させること
任せてはいけないのは、「自分の業務では、どの操作を最初に図にすべきか」「その業務で人が見て触っているものはどれか」の判断です。AIはその業務を見ていません。たたき台をもらったら、第4.1節の3つの判断を自分で確かめてから使います。
5. 作って確かめる:見取り図を描く
5.1 準備
依頼・承認管理アプリの題材(依頼者・承認者・運用管理者という役割があること)を確認します。役割の一覧は記事Aにあります。
5.2 アプリの見取り図
「依頼者が提出ボタンを押す」という1件の操作を、5つの登場人物の間でたどります。
① 利用者(依頼者)が画面で「提出」ボタンを押す
│
▼
② 画面(ブラウザ)が、入力された件名・内容・承認者を、決められた形(API)で送る
│ ─── 通信 ───▶
▼
③ 処理(サーバー側)が、必須項目がそろっているかなど確認する
│
▼
④ 処理が、保存先に「状態を提出済みに変える」よう指示する
│
▼
⑤ 保存先が、依頼の状態を書き換える
│
▼(応答が逆向きに戻る)
② 画面が、「提出しました」という結果を利用者に表示する
矢印の意味:実線の矢印は「情報が渡る向き」を表します。①→⑤まで進んだあと、結果が②まで戻ってくることで、利用者は「提出できたかどうか」を知ります。
③で「確認する」と書いた部分が、第4.1節の3つ目の判断(判定をどこに置くか)に当たります。この図では処理側に置いていますが、画面側でも保存先側でも確認はできます。どこで確認するかで守れることが変わる、という論点は第8.1節へ持ち越します。
5.3 完了条件との照合
| 完了条件 | 確認結果 |
|---|---|
| 5つの登場人物が図と説明の両方にある | 第3.1節の表と第5.2節の図の両方に記載 |
| 提出操作1件の流れが、画面から応答まで途切れず書かれている | 第5.2節の①〜⑤と応答まで記載 |
| 用語(ブラウザ、サーバー、API)に日本語の意味と題材の例が添えてある | 第3.1節に記載 |
この見取り図は、実際に動くアプリを観測したものではなく、この記事のための説明用の図です。実際の実装は08以降で扱います。この図の③〜⑤に当たる処理と保存先を、実際にローカル通信で動かして観測した記録は08-03にあります。
6. よくある勘違いと直し方
見取り図を初めて描くとき、次のような勘違いが起こりがちです。
- 画面から保存先へ直接矢印を引いてしまう。実際には、画面は処理を経由して保存先とやり取りします。画面が直接データを書き換えることはありません。
- 「提出」で終わりだと思ってしまう。提出のあと、結果が利用者に返る(応答)までが1件の操作です。応答が無いと、利用者は結果が分かりません。
- AIに描かせた図をそのまま自分の業務の図にしてしまう。AIの図は一般的なアプリの形です。自分の業務で「人が見て触っているもの」「判断しているもの」「覚えておくもの」を、第4.1節の対応で確かめてから使います。
7. 確認結果
第5.2節の見取り図を、実際のアプリ実装(08以降)で確かめる工程はまだ先です。この記事の時点では、見取り図が完了条件を満たしているかどうかの照合(第5.3節)までを行っています。
残る制限:この見取り図は、実際に動くコードを観測して作ったものではなく、教材として理解のために描いた説明図です。実際の実装で同じ流れになるかは、08以降で確認します。この記事の本文と記入例はClaude Codeが作成したもので、業務担当者による内容確認は行っていません。
8. 設計を判断する
8.1 判定をどこで行うか(画面側・処理側・保存先側)
| 判定を行う場所 | 変更のしやすさ | 確認のしやすさ |
|---|---|---|
| 画面側 | 見た目に近く、変更しやすい | 利用者からは見えるが、実際に守られているかの確認は難しい |
| 処理側 | 業務のルールをまとめて置きやすい | ログなどで確認しやすい |
| 保存先側 | 変更にはやや手間がかかる | データそのものの整合性として確認しやすい |
この段階では、まだ実装がないため、どこで判定するかを確定させません。04-02・05-03で改めて具体的に判断します。ここでは「複数の場所で判定できる」という論点があることだけを持ち越します。3つの場所を実際に比較した結果は記事Bにあります。
8.2 適用限界
この見取り図は、依頼・承認管理アプリの「提出」という1つの操作を単純化して示したものです。実際にはエラー処理や同時操作など、この記事では扱わない複雑さがあります。それらは05-02・08-03・08-04で扱います。
9. 持ち帰る成果物
| 成果物 | 空欄版 | 記入例 |
|---|---|---|
| アプリの見取り図ひな形(登場人物、矢印の意味、操作例1件の流れ) | templates/00-01-app-overview_template.md | templates/00-01-app-overview_example.md |
自分の業務に使うときの手順は次のとおりです。
- 自分の業務アプリに関わる人・画面・処理・保存先を挙げる
- よく行われる操作を1つ選ぶ(第4.1節)
- その操作が、利用者から始まり、画面・処理・保存先を経て、利用者に結果が返るまでの流れを図にする
- 「どこで判定するか」は決めずに、論点として書き残す
10. 次工程への受渡し
次へ渡すもの:アプリの見取り図(5つの登場人物、提出操作の一巡の流れ)、持ち越す論点(判定をどこに置くか)。
次工程での使われ方:00-02(ファイル・コード・データを区別する)では、この見取り図の「処理」「保存先」が具体的に何のファイルやデータでできているかを扱います。00-03(企画から運用までの全体像を知る)では、この見取り図を工程全体の地図に位置づけます。00-04では、第3.3節の「変わらないこと」を人とAIの役割表として決めます。
前工程へ戻る条件:この記事は入口の記事のため、前工程はありません。
11. 根拠と更新情報
- この記事の会社・人物・アプリの動きはすべて架空の設定です。
- 5つの登場人物(利用者・画面・通信・処理・保存先)とブラウザ・サーバー・APIの説明は、教材設計書
AI_SYSTEM_DEV_BLUEPRINT_v0.1.md第4.1節の基礎テーマ配置に基づきます。 - 第3.3節の「AIがコードを書けても、決めることと確かめることは人に残る」という整理は、
docs/content/LEARNING_UNIT_SPEC_V1.md第6節(人とAIの責任分界)に基づきます。 - 制作の来歴:本文・ひな形・記入例はClaude Codeが作成しました。人(ユーザー)による実読・内容確認は未実施です。
- 2026-09-20(Phase 5B-1):Concept型のPilotとして、読む順路(3つの深さ)、第2節の「システム(アプリ)」の用語説明、第3.3節「AI時代に変わること・変わらないこと」、第4節の判断項目(判断すること・仮置き可否・間違えた場合の影響・AIに任せる範囲)、記事間の参照を追加した。見取り図・完了条件・成果物は変えていない。
- 未確認事項:この見取り図が実際の実装(08以降)と一致するかは、この記事の時点では確認していません。
