開発を始める前の基礎学習記事全11節Concept
何をAIに任せ、何を人が検証し、何を人が決めるかを役割表にする
この記事で身につくこと「AIを使って開発する」場面で、AIに任せる作業・人が検証する方法・AIの権限の限界・人が引き受ける判断の4つを区別して説明できる。
記事内目次(22項目)
この記事の会社・人物・役割表はすべて架空の設定です。実在する会社や案件とは関係ありません。
この記事は何の話か。この教材全体を通じて、どの作業をAIに任せ、どの方法で人が検証し、AIにはどこまでの権限を与え、最終的に何を人が決めるかを、役割表にする話です。
なぜ必要か。「AIに任せる」と「AIが確認した」を区別しないと、AIが下書きしたものを、AI自身にもう一度確認させただけで「検証済み」だと思い込んでしまう危険があります。
この記事を読むとできるようになること。
- AIに任せる作業・人が検証する方法・AIの権限の限界・人が引き受ける判断の4つを区別して説明できる
- 題材アプリの要件整理を例に、人とAIの役割表を作れる
- AIの自己確認と人の独立した確認の違いを説明し、どの作業にどの確認を求めるかを判断できる
読む順路。この記事は3つの深さで読めます。全部を順に読む必要はありません。
- 基本だけ理解する:第1節→第3節(4つの区別と誤解)→第4節(判断すること)→第5.2〜5.3節(役割表と越えてはいけない範囲)→第9節。ここまでで、これから先の記事で繰り返し出てくる「任せる・検証する・決める」の区別が分かり、自分の開発の役割表を埋め始められます。
- 作って確かめる:上に加えて第5.4節(AIに役割表の下書きを頼む)→第6節(下書きに混ざる危険な提案の見つけ方)→第7節。
- 設計判断を深める:上に加えて第8節(失敗の影響と確認の費用から、どの作業にどの確認を求めるか)。
1. 今回の業務課題と完成するもの
この記事でやることは、依頼・承認管理アプリの要件整理を例に、AIに任せる作業と、人が検証する方法、AIが越えてはいけない範囲、最終的な判断者をまとめた「人とAIの役割表」を作ることです。
00-03で工程全体の地図を見ましたが、その多くの工程でAIとの協働が登場します。00-01で「AIがコードを書けても、決めることと確かめることは人に残る」と整理しました。この記事では、その前に「AIと人の役割分担そのもの」を先に決めておきます。
この記事を読み終えると、次のものが手元にできます。
- 人とAIの役割表(作業、任せる範囲、検証方法、証拠、最終判断者)
2. 前提知識と読む順路
この記事で使う言葉を先に説明します。
AIへの指示
一言でいうと、AIに何を作ってほしいかを伝える文章です。たとえば、「要件一覧の下書きを作ってください」という指示です。
検証
一言でいうと、AIが作ったものが、実際に求めていた条件を満たしているかを確かめることです。たとえば、AIが作った要件一覧を、聞取りメモと1行ずつ照合します。
これがないと、「AIが作った」ことと「要件を満たしている」ことを混同してしまいます。
承認
一言でいうと、その内容で進めてよいと、人が最終的に認めることです。たとえば、要件一覧の内容で開発を進めてよいかは、人が承認します。
システム開発では、この教材のすべての工程で「AIに何を任せ、何を人が検証し、何を人が承認するか」という同じ構造が繰り返し出てきます。
読む順路:工程全体の地図は00-03が該当します。この記事で作る役割表は、07-04(操作権限・停止・引継ぎの条件を決める)でAI実行ルールの原型として使い、07-01(AIへ渡す情報)・07-03(指示と検証)で作業ごとに具体化します。
3. 理解する:4つの区別
3.1 「AIに任せる」と「AIが確認した」は別
| 区別 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| AIに任せる作業 | AIが下書きや案を作る作業 | 要件文の下書き、テストケースの候補 |
| 人が検証する方法 | AIが作ったものを、人(または独立した仕組み)が確認する方法 | 聞取りメモとの照合、要件との対応確認 |
| AIの権限の限界 | AIに与えてはいけない操作の範囲 | 秘密情報を外部へ送る、承認を代行する |
| 人が引き受ける判断 | 最終的に人が決めること | この要件一覧で進めてよいかの承認 |
3.2 よくある誤解
「AIにもう一度確認させれば、検証したことになる」。同じAIが自分の出力をもう一度見ても、独立した確認にはなりません。人による確認、または要件から独立して定めた期待結果との照合が必要です(記事Bで詳しく扱います)。
「AIは何でも任せてよい」。秘密情報の扱いや、承認のような人の責任が伴う判断は、AIに任せません(第4.2節)。
「役割分担は工程ごとに毎回考えればよい」。基本の考え方を先にこの記事で決めておくことで、07以降の各記事で繰り返し議論する手間を減らせます。
4. 判断すること
役割表を作るときに人が判断することは、次の4つです。
| 判断すること | なぜ判断が必要か | 仮置きしてよいか | 間違えた場合の影響 |
|---|---|---|---|
| 各作業を「任せる」か「任せない」か | 任せる基準が無いと、作業ごとに毎回迷うか、なし崩しに全部任せる | 可(失敗の影響が小さい作業は「任せる」で仮置きし、第8.1節の基準で見直す) | 承認ルールの決定のような業務上の判断まで任せ、「AIがそう言ったから」が決定の根拠になる |
| 任せる作業を、どう検証し、何を証拠に残すか | 「AIに任せる」と「AIが確認した」を分ける唯一の手段。証拠が無いと後から説明できない | 不可。任せる作業には必ず検証方法と証拠を書く | AIの「できました」がそのまま完了報告になり、要件を満たしていない成果物が次工程へ渡る |
| AIが越えてはいけない範囲(禁止事項) | 文書に書いていない禁止は守られない。07-04の実行ルールの元になる | 不可。秘密情報の外部送信・本番接続・承認の代行は最初から禁止に置く | 実データがAIサービスへ送られる。業務上の承認がAIの判断で行われる |
| 最終判断者は誰か | 「AIが作った」ものに責任を持つ人が決まっていないと、問題が起きたとき誰も説明できない | 可(架空の題材では総務課長・検証担当で仮置き。実際の業務では体制を確認して書き直す) | 誰も承認していない成果物が使われる |
勝手に決めてはいけないこと:秘密情報の外部送信、本番環境への接続、承認の代行を、AIに任せる作業に含めません。最終的な承認・判断は、人(この記事の題材では総務課長・担当者)が行います。AIに委ねません。
AIに任せる範囲(この記事自体について):役割表の一般的な項目候補(作業の種類、検証方法の一般例)の提示はAIに任せられますが、実際にどの作業をどこまでAIに任せるか、何を禁止するかは、この教材の方針として人が決めます。AIが「この作業も任せられます」と提案しても、それは提案であって決定ではありません。
5. 作って確かめる:人とAIの役割表を作る
5.1 準備
00-03の工程地図(各工程でAIとの協働が登場すること)を確認します。
5.2 人とAIの役割表
| 作業 | 任せる範囲 | 検証方法 | 証拠 | 最終判断者 |
|---|---|---|---|---|
| 要件文の下書き作成 | AIに任せる(聞取りメモをもとに下書き) | 聞取りメモ・制約と1行ずつ照合する | 照合結果の記録(02-01) | 要件を承認する人(架空:総務課長) |
| 承認ルールの決定(自己承認禁止など) | AIに任せない(人が決める) | — | 決定の記録(記事A・設計書5.2) | 総務課長(架空) |
| テストケースの候補出し | AIに任せる | 要件・受入条件との対応を確認する | 対応表(09-01・09-02) | 検証担当(架空) |
| 実際のテスト実行と結果の記録 | AIに任せる(実行はAIが行ってよい) | 実行結果を期待結果と照合する。AI自身の「できた」という報告だけで済ませない | 実行記録(09-02) | 検証担当(架空) |
| 秘密情報・実データの外部送信 | AIに任せない(禁止) | — | — | — |
| 依頼の承認そのもの(業務上の承認) | AIに任せない(禁止) | — | — | 承認者(記事Aの役割) |
この表の「作業・任せる範囲・検証方法・証拠・最終判断者」という列は、この教材全体で人とAIの責任分界を表すときの共通の形です。07-01(渡す情報)・07-03(指示と検証)・記事B(テストで確かめる)は、この表の行を作業ごとに具体化したものにあたります。
5.3 AIが越えてはいけない範囲
- 秘密情報・実データを外部(AIサービスを含む)へ送信すること
- 本番環境や実際のデータベースへ接続すること
- 業務上の承認(依頼の承認など)を代行すること
これらは、07-04(操作権限・停止・引継ぎの条件を決める)で、より具体的なAI実行ルールとして扱います。
5.4 AIに役割表の下書きを頼む
一般的な役割分担の項目候補をAIに出させます。渡す情報と渡さない情報を先に決めます。
| 渡す情報 | 内容 | 渡さない情報と理由 |
|---|---|---|
| 作業の例 | 要件文の下書き、テストケースの候補出し、実際の承認判断(架空の題材) | 実際の社内体制・担当者名(架空の役割名だけを使う) |
| 役割表の列 | 作業・任せる範囲・検証方法・証拠・最終判断者 | — |
| してはいけないこと | 秘密情報の外部送信・承認の代行を「任せてよい」と提案しないこと | — |
指示文は次のとおりです。これは説明のために書いた例で、実際にAIへ送信した記録ではありません。
AIを使ってシステム開発を進める際の、人とAIの役割分担表を作りたいです。作業の例として、要件文の下書き、テストケースの候補出し、実際の承認判断があります。
依頼:
1. 各作業について、AIに任せてよいか、人が検証する方法の候補を挙げてください。
2. AIに任せてはいけない作業の一般的な例も挙げてください。
してはいけないこと:
- 秘密情報の外部送信や、業務上の承認をAIに任せてよいとは提案しないでください。
6. 初稿・失敗例・修正
6.1 説明用の失敗例(AIの初稿という設定)
AIへの依頼の結果、次のような下書きが返ってきた、という設定にします(実際のAI出力を観測したものではありません)。
- 「承認ルールの決定もAIに任せられます。効率的です」と、業務上の承認判断をAIに任せる案として記載していた
- 「AIが自分でテスト結果を確認すれば十分です」と、独立した検証を省略する案を記載していた
6.2 見つけ方と直し方
下書きの各行を、第3.1節の4つの区別と、第4節の禁止事項に1行ずつ照合します。見るところは2つです。「任せる」と書かれた作業が、業務上の判断(承認ルール)や禁止事項(秘密情報・承認の代行)に当たらないか。「検証方法」の欄が、AI自身の確認だけになっていないか。
| 問題点 | なぜ問題か | どう見つけるか | 誰が判断するか | どう直したか |
|---|---|---|---|---|
| 「承認ルールの決定もAIに任せられます。効率的です」 | 自己承認を認めるかは、この会社の統制のルール。AIの一般論を決定にすると、後から「誰が決めたか」を説明できない(第4節) | 「任せる」と書かれた行の作業が、記事AのQ表のような「仮置き不可」の業務上の決定に当たるかを見る | 業務の責任者(架空:総務課長) | 「AIに任せない(人が決める)」に修正し、証拠を「決定の記録」にした |
| 「AIが自分でテスト結果を確認すれば十分です」 | 実装したAIと同じ前提で確認しても、思い込みは検出できない(第3.2節) | 「検証方法」の欄に、AI以外の主体(人)または要件から独立した基準(期待結果との照合)があるかを見る | 検証担当(架空) | 「実行結果を期待結果と照合する。AI自身の報告だけで済ませない」に修正した |
「効率的です」のような、根拠ではなく利点だけを添えた提案は、判断を急がせる形になりやすい箇所です。利点があっても、第4節の禁止事項に当たるなら採用しません。
AIへの修正指示は次のとおりです(説明用の例)。
指摘:
1. 承認ルールの決定はAIに任せません。人が決める作業として記載し、証拠は「決定の記録」としてください。
2. テスト結果の確認は、AI自身の確認だけでなく、要件から独立した期待結果との照合にしてください。
変えないこと:
- 役割表の列(作業・任せる範囲・検証方法・証拠・最終判断者)は変更しないでください。
6.3 修正後の役割表
修正後の役割表は、第5.2節のとおりです。採用したのは「この教材でのAIと人の分担の型」であり、実際の開発体制では担当者名・責任者を確認して書き直します(第8.2節)。
7. 確認結果
第5.2〜5.3節の内容を、完了条件と照合します。
| 完了条件 | 確認結果 |
|---|---|
| 作業ごとに「任せる/任せない」と理由がある | 第5.2節の全行に記載 |
| 検証方法と証拠の欄が空でない | 任せる作業の行にはすべて記載 |
| AIが越えてはいけない範囲が明記されている | 第5.3節に3項目を記載 |
残る制限:この役割表は架空の題材に基づく一例です。実際の業務では、担当者・責任者の名前や体制を確認して書き直す必要があります。この記事の本文と記入例はClaude Codeが作成したもので、業務担当者による内容確認は行っていません。
8. 設計を判断する
8.1 どの作業にどの確認を求めるか
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 失敗の影響が大きい作業(承認ルールの決定など) | 人が最初から関わり、AIには任せない |
| 失敗しても直しやすい作業(要件文の下書きなど) | AIに任せ、人が照合して直す |
| 費用(確認にかかる手間)が大きい作業 | 独立した検証の頻度・範囲を、失敗の影響とのバランスで決める(09-02〜09-04で扱う) |
失敗した場合の影響が大きい作業ほど、AIの自己確認ではなく、人による、またはAIから独立した方法での検証を求めます。
8.2 適用限界
この役割表は、架空企業「みらい業務サービス」の小規模な社内アプリ開発を前提にしています。開発体制の規模や、扱うデータの機密性が変わる場合は、役割表を見直す必要があります。
9. 持ち帰る成果物
| 成果物 | 空欄版 | 記入例 |
|---|---|---|
| 人とAIの役割表ひな形(作業、任せる範囲、検証方法、証拠、最終判断者) | templates/00-04-human-ai-roles_template.md | templates/00-04-human-ai-roles_example.md |
自分の業務に使うときの手順は次のとおりです。
- 自分の開発で発生する作業を挙げる
- 各作業について、AIに任せてよいかを判断する
- 任せる場合は検証方法と証拠を書く
- AIが越えてはいけない範囲を明記する
10. 次工程への受渡し
次へ渡すもの:人とAIの役割表、AIが越えてはいけない範囲。
次工程での使われ方:01-01(利用者と業務の現場を知る)では、この役割表の「人が判断する項目」を引き継ぎます。07-04(操作権限・停止・引継ぎの条件を決める)では、この役割表を原型にAI実行ルールを作ります。
前工程へ戻る条件:この役割表の内容が、実際の工程で足りないと分かったら、この記事に戻って見直します。
11. 根拠と更新情報
- この記事の会社・人物・役割表はすべて架空の設定です。
- 第6節の初稿は説明用の失敗例であり、実際のAI出力を観測した記録ではありません。
- AIの自己確認と人による独立した確認を区別する考え方は、教材設計書
AI_SYSTEM_DEV_BLUEPRINT_v0.1.md第6.1節(VERIFY段階の考え方)に基づきます。 - 制作の来歴:本文・ひな形・記入例はClaude Codeが作成しました。人(ユーザー)による実読・内容確認は未実施です。
- 役割表の列(作業・任せる範囲・検証方法・証拠・最終判断者)は、
docs/content/LEARNING_UNIT_SPEC_V1.md第6節(人とAIの責任分界)の表に対応させています。 - 2026-09-20(Phase 5B-2A):読む順路(3つの深さ)、第4節の判断項目(判断すること・仮置き可否・間違えた場合の影響)、第5.4節の渡す情報の表、第6.2節のレビュー観点の表、記事間の参照を追加した。役割表の内容・完了条件は変えていない。
- 未確認事項:この役割表は架空の体制に基づく一例であり、実際の開発体制での運用は確認していません。
