AIと進める作業の設計学習記事全11節Design
承認処理の実装を依頼する場面で、AIへ渡す情報を絞り込む
この記事で身につくこと目的・要件・設計・既存コード・制約・完成条件を、必要な範囲に絞ってAIに渡す理由と、渡しすぎ・渡し不足の弊害を説明できる。
記事内目次(23項目)
この記事の会社・人物・資料はすべて架空の設定です。実在する会社や案件とは関係ありません。
この記事は何の話か。承認処理の実装をAIに依頼する場面を例に、目的・要件・設計・既存コード・制約・完成条件のうち、何を渡し、何を渡さないかを決める話です。
なぜ必要か。資料を渡しすぎると、秘密情報や無関係な情報が紛れ込む危険があります。渡さなすぎると、AIが正確な実装を作れず、手戻りが増えます。
この記事を読むとできるようになること。
- 資料を必要な範囲に絞ってAIに渡す理由と、渡しすぎ・渡し不足の弊害を説明できる
- 承認処理の実装を例に、AIへ渡す情報セットを作り、秘密情報や無関係な資料を除外できる
- 作業の種類ごとに「必ず渡す」「求められたら渡す」「渡さない」の基準を書ける
読む順路。この記事は3つの深さで読めます。全部を順に読む必要はありません。
- 基本だけ理解する:第1節→第3節(渡す候補と渡さない候補)→第4節(判断すること)→第5.2〜5.3節(情報セットと除外理由)→第9節。ここまでで、既存の依頼ひな形の「渡す資料」欄をどう埋めるかが分かります。
- 作って確かめる:上に加えて第5.4節(AIに候補を出させる:渡す情報と指示文)→第6節(候補に混ざる渡しすぎ・未確認の断定の見つけ方)→第7節。
- 設計判断を深める:上に加えて第8節(必ず渡す・求められたら渡す・渡さないの基準、適用限界)。
1. 今回の業務課題と完成するもの
この記事でやることは、承認処理の実装をAIに依頼する場面を例に、REQ-003・005〜007、05-02の状態遷移表、05-03の権限表、完成条件を抜き出し、AIへ渡す情報セットを作ることです。
AIへの依頼そのものの書き方は、記事Aで使った「AIへ渡す資料と指示」ひな形が正本です。そのひな形の第2節「渡す資料」と第3節「制約」を埋めるために、「何を渡し、何を渡さないか、なぜか」を先に絞り込む作業が、この記事です。この記事のひな形(07-01-ai-input-set_template.md)は、その絞り込みの作業シートであり、依頼ひな形を置き換えるものではありません。
00-04では人とAIの役割全体の方針を決めましたが、実際に「何を渡すか」の具体的な絞り込みはまだ扱っていません。この記事では、それを扱います。
この記事を読み終えると、次のものが手元にできます。
2. 前提知識と読む順路
この記事で使う言葉を先に説明します。
渡しすぎ・渡し不足
一言でいうと、渡しすぎは不要な情報(秘密情報や無関係な資料)まで渡すこと、渡し不足は必要な情報が欠けていて正確な作業ができないことです。
これがないと、AIが必要な文脈を持たずに作業して見当違いの結果を返したり、逆に不要な情報まで見せてしまったりします。
読む順路:人とAIの役割は00-04、社内の制約は03-01、秘密情報の管理は06-04が該当します。この記事の情報セットは、07-03(指示・検証・修正の手順を決める)のAI作業指示書の「渡す資料」欄と、08-01の「渡す情報」の表に使われます。
3. 理解する:何を渡し、何を渡さないか
3.1 渡す候補と渡さない候補
| 種類 | 渡す候補の例 | 渡さない候補の例 |
|---|---|---|
| 目的・要件 | 関連する要件ID(REQ-003、005〜007) | 関係のない要件(例:REQ-008の復旧に関する要件) |
| 設計資料 | 05-02の状態遷移表、05-03の権限表 | まだ確定していない設計案 |
| 既存コード | 修正対象の関数のみ | プロジェクト全体のコード |
| 制約 | 03-01で確認済みの制約 | 03-01の未確認事項をそのまま断定情報として渡すこと |
| 完成条件 | 02-04の受入条件のうち関連するもの | 関係のない受入条件 |
3.2 よくある誤解
「資料は多いほど正確な結果が返る」。関係のない資料が多いと、AIがどの情報を重視すべきか分かりにくくなり、かえって精度が落ちることがあります。
「秘密情報でなければ何でも渡してよい」。06-04で扱った秘密情報だけでなく、03-01の未確認の制約(例:データ持出しがまだ確認できていないこと)も、断定情報として渡さないよう注意します。
「AIに渡す資料は毎回同じでよい」。作業の種類によって、必要な資料は変わります(第8節)。
4. 判断すること
渡す情報を絞り込むときに人が判断することは、次の4つです。
| 判断すること | なぜ判断が必要か | 仮置きしてよいか | 間違えた場合の影響 |
|---|---|---|---|
| 今回の作業に「直接関わる」要件・設計はどれか | 全部渡すとAIがどれを重視すべきか分からず、関係の薄い要件(復旧など)まで実装に混ぜる(第3.2節) | 可(迷ったら「完成条件に出てくるもの」を基準に入れ、足りなければ求められたときに渡す) | 承認処理の依頼に復旧の要件が混ざり、指示書の範囲を超えた実装が返る |
| 既存コードをどの範囲まで渡すか | 渡しすぎは無関係な変更を誘い、渡し不足は既存の関数と食い違う実装になる | 可(修正対象の関数だけで仮置きし、AIが不足を指摘したら範囲を確認して足す) | プロジェクト全体を渡して、関係ない箇所まで書き換えられる |
| 確認済みの制約と、未確認の制約をどう区別して渡すか | 03-01の未確認事項を断定して渡すと、AIはそれを前提に設計する | 不可。未確認は「未確認」と書いて渡すか、渡さない | 「データ持出し可」を前提にした実装が返り、後で持出し不可と分かって作り直す |
| 秘密情報・実データが含まれていないか | 含まれていれば外部(AIサービス)へ送られる。07-04の禁止事項 | 不可。渡す前に必ず確認欄で確かめる | 設定値や実データが外部に出る。取り消せない |
勝手に決めてはいけないこと:06-04で管理する秘密情報を、この記事の情報セットに含めません。03-01の未確認の制約を、確認済みの制約であるかのように渡しません。
AIに任せる範囲:「この作業に関係しそうな資料の候補」を洗い出させること、資料の要点を短くまとめさせることはAIに任せられます。しかし、何を渡し何を渡さないかの決定と、秘密情報・未確認事項の確認は人が行います。AIは「参考になるかもしれないので全部」と広げがちで、絞るのは人の仕事です(第6節)。
5. 作って確かめる:AIへ渡す情報セットを作る
5.1 準備
02〜06の該当する成果物(05-02の状態遷移表、05-03の権限表、02-04の受入条件、06-04の管理ルール)と、「AIへ渡す資料と指示」ひな形を用意します。
5.2 AIへ渡す情報セット(承認処理の実装を依頼する場面)
| 項目 | 内容 | 出所 |
|---|---|---|
| 目的 | 承認可否を判定し、状態を更新する処理を実装する | 03-04の開発計画 |
| 要件ID | REQ-003(自己承認禁止)、REQ-005(履歴)、REQ-006(重複防止)、REQ-007(状態変更と履歴追加の一体性) | 設計書5.4節 |
| 設計資料 | 05-02の状態遷移表(提出済み→承認済みの遷移)、05-03の権限表(承認者の行) | 05-02、05-03 |
| 既存コードの範囲 | 承認可否を判定する関数のみ(08-01で作成予定の最小の関数) | 08-01 |
| 制約 | 教材演習用の実行環境(06-01で確認済みのNode.js)、秘密情報を含まないこと(06-04) | 06-01、06-04 |
| 完成条件 | 02-04のAC-001(正常な承認)、AC-002(割当外の拒否)、AC-003(自己承認の拒否)に対応すること | 02-04、記事A |
この表を依頼ひな形へ転記すると、次のようになります。依頼ひな形の第2節「渡す資料」の列(資料・内容の要点・渡す範囲・秘密情報を含まないか)に、この記事の「出所」と「除外理由」(第5.3節)を添えた形です。記事Aの記入例と同じ書き方です。
| 資料 | 内容の要点 | 渡す範囲 | 秘密情報・個人情報は含まないか |
|---|---|---|---|
| 要件一覧 | REQ-003・005・006・007 | 該当4件のみ(REQ-008は除外、第5.3節) | 含まない |
| 状態遷移表(05-02) | 提出済み→承認済みの行 | 該当行のみ | 含まない |
| 権限表(05-03) | 承認者の行 | 該当行のみ | 含まない |
| 既存コード | 承認可否を判定する関数 | その関数のみ | 含まない(架空データのみ) |
| 受入条件(02-04) | AC-001〜003 | 該当3件のみ | 含まない |
5.3 除外した情報とその理由
| 除外した情報 | 理由 |
|---|---|
| 03-01の未確認の制約(データ持出し、予算) | 未確認の情報を断定的な前提として渡さないため |
| 復旧・バックアップに関する情報(REQ-008、05-04) | 今回の作業(承認処理の実装)とは関連が薄いため |
| プロジェクト全体のコード | 修正対象の関数以外は不要であり、渡しすぎになるため |
5.4 秘密情報・実データの確認欄
- 秘密情報(06-04の設定見本の値など)を含んでいない
- 実データを含んでいない(すべて架空のデータ)
5.4 AIに資料の候補を出させる
絞り込みの前に、「この作業に関係しそうな資料」の候補をAIに洗い出させることができます。AIがするのは候補の列挙で、渡す・渡さないの決定は人が行います。
| 渡す情報 | 内容 | 渡さない情報と理由 |
|---|---|---|
| 作業の目的 | 承認可否を判定し、状態を更新する処理を実装する | 資料の中身そのもの(この段階では候補を挙げさせるだけ。中身は絞り込んでから渡す) |
| 手元にある成果物の一覧(名前だけ) | 02〜06の成果物名と、03-01の制約一覧の項目名(確認済み/未確認の区別つき) | 03-01の未確認事項の中身、06-04の設定値 |
指示文は次のとおりです。これは説明のために書いた例で、実際にAIへ送信した記録ではありません。
架空企業「みらい業務サービス」の依頼・承認管理アプリで、「承認可否を判定し、状態を更新する処理」の実装をAIに依頼する準備をしています。
手元にある成果物(名前だけ):業務要件一覧(REQ-001〜008)、状態遷移表、権限表、受入条件一覧(AC-001〜010)、構成図・復旧方針、制約一覧(確認済み/未確認の区別あり)、秘密情報管理ルール、既存コード(承認可否の判定関数、その他)
依頼:
1. この作業に「必ず渡す」「求められたら渡す」「渡さない」資料を、理由とともに3区分に分けてください。
2. 資料の中で、範囲を絞れるもの(該当行だけ、該当関数だけ)があれば、絞り方を提案してください。
してはいけないこと:
- 「参考になるので全部渡す」という区分は作らないでください。
- 未確認の制約を、確認済みのように扱わないでください。
- 秘密情報(設定値など)を渡す候補に入れないでください。
返し方:
- 3区分の表だけを返してください。最終的にどれを渡すかは人が決めます。
6. 初稿・失敗例・修正
6.1 説明用の失敗例(AIの初稿という設定)
第5.4節の指示に対して、次のような候補が返ってきた、という設定にします(実際のAI出力を観測したものではなく、教えるために不備を入れた説明用の例です)。
- 「必ず渡す」に、プロジェクト全体のコードを入れていた(「関係する箇所が分からないので全部」という理由つき)
- 03-01の未確認の制約(データ持出し)を「送信可能」と断定的に扱った案を提示していた
6.2 見つけ方と直し方
見るところは3つです。「必ず渡す」の各行が、今回の完成条件(AC-001〜003)に直接関わるか。未確認の制約が確認済みとして扱われていないか。秘密情報・実データが候補に入っていないか。
| 問題点 | なぜ問題か | どう見つけるか | 誰が判断するか | どう直したか |
|---|---|---|---|---|
| 「必ず渡す」にプロジェクト全体のコードがある | 修正対象以外まで変更される。関係の薄い情報が多いと、AIがどれを重視すべきか分からない(第3.2節) | 「必ず渡す」の各行に「どの完成条件のために要るか」を書けるかを問う。書けない行は「求められたら渡す」か「渡さない」 | 依頼する人(架空:開発担当) | 「承認可否を判定する関数のみ」に絞り、全体のコードは「求められたら、範囲を確認して渡す」にした |
| 03-01の「データ持出し」が「送信可能」として扱われている | 03-01では未確認。断定して渡すと、AIはそれを前提に外部送信を含む実装をする可能性がある | 制約の各行を、03-01の「確認済み/未確認」の区別と照合する | 依頼する人と、制約を確認する責任者 | 「未確認」として渡さず、第5.3節の除外一覧に理由とともに移した |
「理由つきで全部」は、絞り込みを放棄した区分です。理由が「分からないので」であるときは、分からないことを解消する(完成条件を見る)のが先で、全部渡すことではありません。
AIへの修正指示は次のとおりです(説明用の例)。
指摘:
1. 渡すコードは、修正対象の関数(承認可否の判定)のみに絞ってください。プロジェクト全体は「求められたら、範囲を確認して渡す」に区分してください。
2. データ持出しの制約は未確認です。「送信可能」と断定せず、「渡さない(未確認のため)」に区分してください。
変えないこと:
- 3区分の形は変更しないでください。
6.3 修正後の情報セット
修正後の情報セットは、第5.2〜5.3節のとおりです。採用したのは「今回の作業(承認処理の実装)に対する絞り込み」であり、作業が変われば絞り直します(第8.1節)。採用した情報セットは、依頼ひな形の「渡す資料」・「制約」の欄へ転記し、07-03の作業指示書の「渡す資料」欄になります。
7. 確認結果
第5.2〜5.4節の内容を、完了条件と照合します。
残る制限:この情報セットは架空の作業例に基づく一例です。実際の作業ごとに、渡す資料の範囲を都度確認する必要があります。第5.4節の指示文と第6節の初稿は説明用の例であり、実際にAIへ送信・観測した記録ではありません。この記事の本文と記入例はClaude Codeが作成したもので、業務担当者による内容確認は行っていません。
8. 設計を判断する
8.1 「必ず渡す」「求められたら渡す」「渡さない」の基準
| 区分 | 基準 | 例 |
|---|---|---|
| 必ず渡す | 作業の正確さに直接関わる要件・設計資料 | 関連する要件ID、状態遷移表、権限表 |
| 求められたら渡す | AIが不足を指摘した場合に、範囲を確認してから渡す | 追加の背景情報 |
| 渡さない | 秘密情報、未確認の制約、無関係な資料 | 06-04の設定値、03-01の未確認事項、プロジェクト全体のコード |
資料の量が多いほど、AIの作業は正確になりやすい面がありますが、同時に不要な情報が紛れ込む危険も増えます。作業の種類(実装、テスト、レビューなど)ごとに、必要な資料の範囲を都度確認する方針を採用します。
8.2 適用限界
この基準は、架空企業「みらい業務サービス」の承認処理の実装という一例に基づいています。作業の種類が変われば、必要な資料の範囲も変わります。
9. 持ち帰る成果物
| 成果物 | 空欄版 | 記入例 |
|---|---|---|
| AIへ渡す情報セットひな形(渡す資料の絞り込みシート:目的、要件ID、設計資料、既存コードの範囲、制約、完成条件、除外した情報とその理由) | templates/07-01-ai-input-set_template.md | templates/07-01-ai-input-set_example.md |
| AIへ渡す資料と指示のひな形(依頼全体の正本。「渡す資料」「制約」の欄にこの記事の結果を転記する) | templates/ai_request_template.md | templates/ai_request_example.md |
自分の業務に使うときの手順は次のとおりです。
- 依頼する作業の目的を明確にする
- 関連する要件ID・設計資料・既存コードの範囲を絞る
- 除外する情報とその理由を書く
- 秘密情報・実データが含まれていないか確認する
- 絞り込んだ結果を、依頼ひな形(
ai_request_template.md)の「渡す資料」「制約」の欄に転記する
10. 次工程への受渡し
次へ渡すもの:AIへ渡す情報セット(依頼ひな形の「渡す資料」「制約」の欄に転記した形)。
次工程での使われ方:07-03(指示・検証・修正の手順を決める)では、この情報セットをAI作業指示書の「渡す資料」欄に使います。08-01では、この絞り込みの結果が「渡す情報/渡さない情報」の表になっています。
前工程へ戻る条件:情報セットが06-04の管理ルールと食い違う場合は、06-04に戻って確認します。
11. 根拠と更新情報
- この記事の会社・人物・情報セットはすべて架空の設定です。
- 第6節の初稿は説明用の失敗例であり、実際のAI出力を観測した記録ではありません。
- 情報セットの内容(状態遷移表、権限表、受入条件)は、05-02・05-03・02-04の内容に基づきます。
- 制作の来歴:本文・ひな形・記入例はClaude Codeが作成しました。人(ユーザー)による実読・内容確認は未実施です。
- AIへの依頼の書き方(渡す資料・制約・返してほしい形式・完成条件・人が確認すること・指示文)の正本は
templates/ai_request_template.mdであり、この記事のひな形はその「渡す資料」「制約」の欄を埋めるための絞り込みシートです。 - 第5.4節の指示文は、この記事のために書いた指示文の例であり、実際にAIへ送信した記録ではありません。
- 2026-09-20(Phase 5B-2A):受入監査で「既存のAI依頼ひな形と重複したひな形」と指摘された。依頼全体の正本を
ai_request_template.mdと明記し、この記事のひな形を「渡す資料の絞り込みシート」と位置づけ直し、第5.2節に依頼ひな形の「渡す資料」欄への転記例を加えた。あわせて読む順路、第4節の判断項目、第5.4節「AIに資料の候補を出させる」、第6.2節のレビュー観点の表、記事間の参照を追加した。情報セットの内容・完了条件は変えていない。 - 未確認事項:この情報セットを実際にAIへ渡して実装を依頼した記録ではなく、資料の絞り込み方の説明です。
